ELCAS・最先端科学の体験型学習講座(京都大学理学部)未来の科学者養成講座

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エーテルとダークマター[物理]

2008年9月6日(土) 今井憲一教授

それで、幾らやってもですね、これが0になるんですね。実験の結果はこれが0になる。これはおかしい。困るじゃないかと。ね。それでですね、このエーテルに対する地球の運動ということが測定できない。困ったというわけですね。

ローレンツ変換

で、そのときに出てきた人が、このローレンツっていう人です。ローレンツはオランダ人で、当時、いちばん尊敬された理論物理学者だといわれています。歴史上初めて国際会議という、物理学の国際会議を開いた人としても知られています。なかなか温厚そうで、僕に似てるって言う人もいますけど、どうですかね。彼は、ノーベル賞を、第2回めぐらいのノーベル賞を取ってると思いますが、この人はどう考えたか。

この矛盾ですね。エーテルと光速度の矛盾。  それで彼は、「局所時」とか「ローレンツ短縮」っていいますけど、これ、走ってる方向に距離が縮んでくれればいいじゃないかと思うわけですね。エーテルに向かって走ってると物が縮むと解釈すれば、これは0になるんです。ここのLを、縮んでくれると、これは式で書くとすぐ分かりますけど、ここの距離だけちょっと縮んでくれるとOKだと。それから、もう一つ別の実験があってですね、時間のほうも、走ってる系とこっちとではちょっと変わってくれないと困るという、この二つのことをやって、「ローレンツ変換」っていう式を作るわけですね。一応書いておきましょうね。こういう二つの系のローレンツ変換っていうんですけど、こういうA系、B系という系があって、x、yと(不明)。この座標変換は、こういう変換をしてあげると今までの不都合な実験はみんな説明できますというのがローレンツ変換といって、これは1904年です。

これを見てみると、最初のニュートンの変換っていうのは、単にこのx、yというのがx-vtと書けますというものであったわけですが、ここには重大な問題があってですね、この両方の系。走ってる電車と止まってる人とは、同じ時間のたち方をしますという仮定があったんです。時間は空間とは関係がない。どんなところでも時間は同じようにたってるという仮定があって、この式が成り立つ。で、ここではこの、そこにこういう関係式をもたらすという。彼は、よく分からなかったんだけど、とにかくそれは局所時で、その場所での時間だということを言ってます。さっきも言いましたように、運動方向にはローレンツ短縮、物が縮むということをこれは表してるというのが彼の考え方です。

このβっていうのがありますけど、■■、このこれが運動してる速度ですね。それは、この二つの考え方ですね。エーテルは絶対空間に存在しているということ。それからもう一つ、そのニュートンの力学っていうのがあるんですね。ニュートンの力学はもうすでに200年もたってましたので、その間、何の間違いも出てこない。だからこれは正しいという立場を崩しませんでした。

で、そのときに出てきたのが、このアインシュタインですね。これは若いころで、これが割と晩年ですかね。この写真は有名ですよね。この写真は科学者のイメージを作ったといわれています。鉄腕アトムのお茶の水博士とか、いろんな科学者の、漫画に出てくる科学者のイメージっていうのは、大体頭ぼうぼうという、この写真から作られたといわれてますけど、確かに物理学会なんか行って見てると、こういう格好をしたのがけっこういる。いることは確かです。彼は1905年に、彼はマクスウェルの方程式のことを随分勉強してたわけですけど、相対性理論っていうのを発表するわけですね。要するに、エーテルなんていうものの証拠は何もない。何もないんだから、そんなものはないと考えるべきであるということです。それに気がついたという。で、有名な相対性原理、つまり、すべての基本法則はどの慣性系でも成り立つと。原理っていうのは法則と違って、これが一番だといってるわけですね。

これはすごいことなんですよね、やっぱりね。よくよく考えてみると。っていうのは、これを要請した途端に、ニュートン方程式は変えないといけないということになるわけです。だから、ニュートン方程式は、変更はやむをえないと。マクスウェル方程式、要するに電磁波を記述する方程式こそ基本であると。で、この方程式には、cという、光の速度という常数が出てきますね。

だから、座標変換すると必ず、その常数にまたさらに速度が加わるということになっちゃいます。そうすると式は変わっちゃいますね。ですから、この方程式を基本法則だとした途端に、光の速度はどの系でも変わらないという結論になります。要するに、もともと速度のあるところで光を出しても、じっとしてるところで光を出しても、光の速度は一緒やと。ちょっと常識と違うでしょう? ね。電車の中で物を投げるのと、止まってて物を投げるのでは、外から見たときスピードは違いますよね。と思うでしょう。だけど、光に関してはそうじゃない。どの系でも同じだという要請に、この要請を得た途端にこの原理になります。

だから、なかなかこれは信じられなかったんですね。さっき言ったマイケルソンは、これを実験をしているわけですね。要するに光の速度は変わらない。当然地球に乗って走ってるはずなのに、変わらへんと。宇宙の進んでる方向とそうじゃない方向とで変わらないという実験の結果、アインシュタインはこれを思いつくわけですけれども、これが出てからも、マイケルソンはひたすら実験を続けます。

どうも地上ではだめだったので、最後には山に登って実験しますね。山の上だったらエーテルが■■てるかもしれない。それぐらい、なかなか信じられないと。なかったわけです。で、実際に光の速度ぐらいでないと、この式は効いてこないんですね。だから、相対論というのは、実際の日常生活では全くといってこの座標変換は関係ないですね。

だから大学でも、多分工学部あたりに行くと、相対論の講義なんてありません。物理学科だけです。それぐらい、あんまり日常生活に関係ない。光の速度ぐらいで(不明)。ところが、宇宙船とか素粒子とか、そういう世界は光の速度に簡単に近づくので、必ず■■の話は長くなります。  これ、驚くべき結果っていうのは、時間と空間が区別できないんだという、そういうわれわれの概念を変えるということですね。時間と空間というのは区別できない。系が変わると混ざり合ってしまう。それから、われわれの生活にいちばん多分大きかったのは、運動エネルギーと質量エネルギーも系が変わると区別ができない。

相対論とエーテルの関係

つまり、質量エネルギーというのが、ある系になれば運動エネルギーに(不明)。皆さんが習ってるのは運動エネルギーですよね。2分の1mv2乗という。これも区別できないということで、有名なE=mcスクエアという、mc2乗という、質量が運動エネルギーに転化すると。全体としてエネルギーを保存するという、そういうシナリオになるわけです。これを一つ一つ説明するのは難しいので、概念だけにしますけど、これが原子爆弾に行き着くわけですね。原子力という。アインシュタインが原爆を作ったとかいうのはうそで、核分裂を発見したのはほかの人ですけど、アインシュタインは、そのことを知って大統領に原爆開発を進言したのは事実ですね。アメリカ大統領に対して。

これがその大きなものです。これが相対論とエーテルの関係です。こうしてエーテルは消えてしまったわけですね。エーテルは必要ないと。その代わりにわれわれは、相対性原理という新しい物理の考え方、自然に対する考え方を得たということになります。そういう意味で非常に革命を呼んだ仮説であった。エーテルが、それが見付からない。なぜだというのを解決したのが相対性理論ということです。

で、ダークマターとは何かというと、われわれは今、宇宙の全質量のうち、見える物はたった10%しかないということをほとんどの物理学者が信じるようになっています。ちょうどエーテルを信じてたみたいに信じるようになる。で、残りは何だと。これを「ダークマター」というんです。暗黒物質と。要するに、見えないものだから何か分からないと。それが見えるものの10倍ある。これは、やっぱり現代物理学としてはというか、サイエンスとして最大のなぞだと言っていいと思います。

で、これはどうしてそう思うようになったかというと、一つは、いちばん分かりやすいのは、いろんな理由があるんですけど、銀河の回転速度ですね。銀河っていうのは中心にものすごい質量がたくさんあって、明るく輝いています。これは、ほとんどは恒星ですね。太陽みたいな恒星が、何十億個、何百億っていうものすごい数があるのが銀河ですよね。中心に、非常に重力の中心が強いので、それにこう回転をしてるわけですね。星が、この銀河中心の周りを回転してる。渦巻きのように回転してると。で、この銀河の構造を、この明るさですね。この明るさを、この中心からの距離と距離の関数としてプロットします。大体この明るさは、星が何個あるかで決まってる。太陽みたいな輝く星が何個あるか。とすると、大体質量に比例するんですよね。で、これ、横軸が半径です。パーセックっていうのは、1パーセックが3点何光年ですから、相当な遠い距離ですけど、とにかくこういうふうになる。

それで、重力の式って知ってますよね。知ってますか。二つの物があれば、何かこういう中心に大きな重力があって、この辺になんかスモールなものがあると。まあ、星がある。これが回転している。重力に引っ張られて。こういうFという力で引っ張られますと、これは距離の2乗に反比例して、それぞれの質量に比例すると。Gっていうのは重力常数、常数です。それで、一定の円運動をするためには、当然ここに遠心力というのが働きます。

これが釣り合わないといけない。遠心力が。それがこの式です。遠心力っていうのは、この走ってる速度vと、この距離rですね。この距離と質量の関係で、r分のmv2乗。これは高等学校の教科書にも出てるはずですね。物理学の教科書に。出てない? まだ習ってないか。なんかバケツを持って水を入れて回すと、水は止まってますよね。落っこってこない。遠心力っていうのが働いてるからですね。外へ向かう力と中で引っ張る力が釣り合うことで、ぐるぐると同じ軌道を回りますよね。天体の運動はすべてそうですね。これを解くと、この速度というのは、r分のGMのルートと、2分の1乗となります。これが簡単なやつです。だから速度は、どんどん半径が大きくなると小さくなりますよと。回転速度が落ちていく。遠くへ行けば行くほど。