ELCAS・最先端科学の体験型学習講座(京都大学理学部)未来の科学者養成講座

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エーテルとダークマター[物理]

2008年9月6日(土) 今井憲一教授

で、わたしたちは、そのダークマター実験棟というのを造ってる。すぐそこにあります。物理教室の近くに、ダークマター実験棟。ダークマターを探してるわけです。これを見付ければ間違いなくノーベル賞ですから。

アクシオン

で、わたしたちは、アクシオンっていうのを探しています。実はこのアクシオンっていうのも、説明しだすと長いんですけど、アクシオンというのはもともとダークマターの候補としてもちろん予言されたわけじゃなくて、物質と反物質って知ってますよね。反物質っていうのは、電子の陽電子、電荷が電子はマイナスだけど、プラスの電子を持つ。

それを簡単にこれで見ることができる。(不明)。陽子もありました。最近では反水素なんていうのも作られています。で、何でわれわれの宇宙には物質しかないか。反物質がないか。どこを探しても宇宙にはない■■。で、なぜそうなのか。

物理学の法則としては、物質と反物質は対称なんですね。「CP対称性」っていいますけど、わずかな破れがある相互作用で見付かってるんですが、弱い相互作用っていう、相互作用ではわずかに。それが、きっと物質と反物質の大きな現在の違いを生んでるんではないかといわれてますけど、それはちょっとまだはっきりはしません。 (録音中断) 今井 ……で、この間まで陽子を作ってる(不明)、それは強い相互作用で作ってます。そこでは、非常に厳密に反対称性が、対称性が成り立ってる。で、厳密すぎてですね、困ると。要するに、何でそんなに厳密に成り立つのか説明できない。

それで、このアクシオンっていうのがあれば、それを簡単に説明できるという理論があるわけです。それが1976年ぐらいに出てるんですね。  そのあと、これはなかなか美しい理論で、きっとそういう粒子はあるかもしれないというのでだいぶみんな探しまして、僕も1980年代の半ばには大きな加速器を使って、これを見付ければノーベル賞もらえるなと思って一所懸命探しました。加速器でボカーンとぶつけてですね、出てくる粒子を見るわけです。アクシオンができると、それがフォトン、二つのフォトン。フォトンの絵が書いてありますけど、光に転換していくものを探した。まあ、見付かりませんでしたね。

で、重い、つまり電子の質量より重いのはもうないということをそのとき証明しました。  で、ずっと「もうこれはあかんな」と思ってたんですけど、最近ダークマターとして、■■としていわれるようになって、うんと軽い、要するにマイクロ波領域。マイクロ・エレクトロ・■■っていうんですけど、電子の重さの100万……。10の12乗、10乗か11乗の小さい質量ですね。ものすごい軽いんです。そういうのだったら、ダークマターの■■としてあっていいということになったんですね。それを今、探してるわけです。  それを探す方法は、ちょっと難しいですけど、すごい強い磁場の中にですね、磁石を置いておくわけです。そうすると、もしこの辺にアクシオンがありますと、その磁石のフォトン、磁場と相互作用を起こして、アクシオンがフォトン、光、マイクロ波ですね、■■は。

電磁波に転換するということが計算上言えます。どのぐらいの確率でということも計算できます。そのマイクロ波を、■■現象、これもまた難しいんですが、1個のマイクロ波を測定する方法なんですけど、非常にセンシティブな方法を使って測ろうというものです。今、装置を組み上げているところなんですけど、これはちょっと難しいから省略しますね。どうやったらマイクロ波を吸収して測れるかっていう、装置の概念図としてはこんな、高さが4、5メートルぐらいある超伝導磁石。これ、10テスラっていうものすごい磁場を発生させて、その中でアクシオンがマイクロ波に転換するのを1個1個測定してやろうというものです。物理を志望されたかたはごらんになっていただけると思いますが、こういう装置です。これを見ても分かりませんけどね。  マイクロ波を測るためには、温度も冷却しないといけないんですね。

そこらじゅうマイクロ波がありますから、黒体輻射っていうんですけど、温度も10ミリケルビンといって、極低温ですね。マイナス273点何々何度という、絶対零度から10ミリケルビンしかない、ほとんど絶対零度に近い温度にして、そういう雑音がなくして測定をしないといけない。

そういういろんな技術上の問題があって、なかなか時間がかかったんです。うちの研究室の大学院生が一所懸命、見付ければノーベル賞だと思いながらやってるわけです。まあ、要するに極低温の(不明)各物質の■■を探すというのがキャッチフレーズで、こういう研究をしております。  これで話は一応おしまいですが、何か質問を。質問をしてください。途中で質問なかったけど。

司会 質問のあるかた。確かになかなか難しい話だったと思いますが。

今井 まあ、ダークマターが非常に不思議なものだということですね。で、エーテルは、50年間あると信じられてたけど、なかった。なかった代わりに、われわれは相対性理論という新しい理論を得たんですね。ダークマターもどうなるか分かりませんが、結論は、必ず何か新しい、全くわれわれが知らない新しいことになることは明らかです。要するに、重力が■■全然違って、われわれの考えてるのと違うとか、何か全然知らない素粒子がわれわれの知ってる量の10倍もあるんですからね、不思議ですよね。それがどういう結末になろうと、革命を起こすことは間違いないと思います。

 ダークマターが重要視されているのは、重力が宇宙の基本だからということなんでしょうか。

今井 というより、シンプルに、われわれの知らない物質が知ってる物質の10倍あるんですよ。不思議だと思いません?

○ それはどこから導かれるんですか。

今井 それはさっき言ったとおり、銀河、銀河の運動。あれはシンプルな話ですよね。銀河の回転速度が、説明するためには10倍質量がないといけないと。だけど、星の数を……。星、大体質量というのは、ほとんど恒星でできてるというのはほぼ間違いないと思われてるんですよね。太陽系見ても、隣のなんか系見ても、恒星が圧倒的に多いし、恒星の数、恒星がどういう質量分布してるかも分かってるわけなんで、その数を数えてやれば、全質量が出ちゃう。ほとんどそれに近い。

 重力より、重力っていうのは電磁気力より弱いじゃないですか。

今井 そうです。

 なのに、何で重力……。電磁気力を重視した理論っていうのはないんでしょうか。

今井 いや、電磁気力は、あの電磁場の理論、今言ったマクスウェルの方程式ですべて記述できます。あれは今のところ正しい。アインシュタインは、それを守るために相対論を作ったんですね。だから、それを重視してますよ。電磁気力ももちろんあるし。だけど、宇宙の大部分は中性なんです。電荷を持ってない。水素原子なんです。何でもそれは原子です。もちろん電離してる人もいますけど。だから、重力がやっぱり圧倒的に効くわけです。電磁気も、同じように無限大まで力働くんですけど。で、弱さも強さも全然違うんですけど。電磁気力のほうが圧倒的に強いんですけど、物が少ないから。地球だって、なんか電荷は少しは持ってるかもしれないけれど、そこの差で強さが違う。実際の強さが違う。

司会 はい、ほかに。はい。

 宇宙っていうのは(不明)。

今井 それもまあ、今、議論の対象なんですけど、先ほど言ったWMAPといういちばん引用数を稼いでる論文の結論はですね、膨張、加速して加速膨張になるというのが。昔は、いったんね、どこかで止まって、またもう1回収縮する(不明)、「永遠に膨張してる■■なんて許せない」みたいな感じがあったんですが、今は、膨張速度がさらに加速してるという結論なんですね。ということはどういうことかというと、要するに、われわれは宇宙の端まで見たいんだけど、膨張が加速すると、どこかで見えなくなるということを意味します。なんかちょっと不安になるようなやつですね。「宇宙の果てが原理的に見えません」なんて言われる可能性が出てきたわけです。

司会 はい、ほかに。

今井 で、その先ほどの話だけど、WMAPのデータっていうのは、ダークマターの量とか、加速の、膨張のしかたとか、全部をパラメーターにして決めてるんです。だから、関係してるんです。ダークマターの量とか、もちろんニュートリノの量なんて話も、全部ニュートリノの物質がありますので、そういった量がどうなるのか、全部に効く話なんですね。宇宙ができたころからある物質は、物質の情報を反映してるので、みんな(不明)。

司会 はい、ほかにありませんでしょうか。なければ、今日の第1回のオープンコア講座、公開オープンコア講座はこれで終わりたいと思います。どうもお疲れさまでした。そうしたらですね、とりあえず今後、最先端科学の体験型学習講座を受講される高校生の皆さんは、■■に行ってください。また、この公開オープンコア講座は、これから毎月1回、第1週の土曜日に連続してずっと行われていきますので、またもう一度申し込みをしていただいてですね、受講していただければと思います。じゃあ、今日はどうもお疲れさまでした。