ELCAS・最先端科学の体験型学習講座(京都大学理学部)未来の科学者養成講座

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エーテルとダークマター[物理]

2008年9月6日(土) 今井憲一教授

ところが、これが測定点なんです。あるNGC何とかいう銀河ではですね、距離が伸びても速度は全然変わっていかない。もしもこういう質量の分布であるならば、必ず下がっていかないといけない。こういうふうにね。だから、それが最大の問題なんですね。で、一定にするにはどうしたらいいかいうたら、ここのMがrに比例してればいいわけです。この質量Mというのが比例してればいい。そうすれば速度は一定になります。ということは、これが外へ行けば外へ行くほど、これは質量がどんどん大きくなってるというので、物質がいっぱいないと困るわけです。

ところが見えるのはこれだけというのが、ダークマターの存在の最大の根拠です。だから、銀河の周りには、星のように光ってない物質がたくさんあると。それが10倍ぐらいないと困る。要するに、この空間の大きさというのはrの3乗でいきますから、質量としてはどんどん、どんどん大きくなっちゃうわけですね。これ、一つの銀河だけじゃないんです。ルービンっていう人がいろんな銀河で測ってみたわけです。これ、横軸が距離ですね。速度はいつも一定になります。どの銀河でもそうだと。われわれの銀河もそうです。だからわれわれは、その質量の10倍っていうのがないと、この重力の法則を疑わなければならなくなるわけですね。今のところ、それが壊れてるという証拠はそんなにはないんですね。

ほかにもあってですね、これは最近の衛星写真で、ある遠くにある銀河ですけど、可視光で見る。天体望遠鏡、普通の光の■■でこういう格好をしてると。ところがX線で見ると、わーっと光ってるわけですね。これはガスが光ってるんですけれども、これだけの物質がこんな遠いところまで存在するためには、やっぱり重力が周りにないといけないということになります。そうじゃないとみんな飛び散って、なくなっちゃう。ということも一つですね。  それからもう一つ、最近では「アインシュタイン・リング」っていう、これはなかなかきれいな写真ですよね。アインシュタインは、今言った相対性理論は特殊相対性理論で、そのあと一般相対性理論。要するに慣性系、一定の速度で飛んでる座標の変換じゃなくて、加速度を受けてる系統の変換に対しても、その相対性原理っていうのをアプライするわけです。それで一般相対論というのを作ります。一般相対論をさらに、皆さんとは関係がなくて、要するに宇宙だけの話。ほとんどそうです。一般相対論を地上で検証するのは非常に難しい。宇宙では、重力の非常に強いところでは、一般相対論でなければ物事は説明できない。

その一つに、非常に重力が強いと空間がひずむということになりますね。空間のひずみを一般相対論は表現しますから。そうすると、ここに人間がいて、ここに銀河が一直線に並ぶとします。そうすると光は、この銀河のそばを通ったときに、この空間がひずんでるので、レンズという効果を生じるわけですね。レンズのように感じます。こう曲がってくるんです。これを「重力レンズ」といいますね。すごく重力が強いと、周りの空間がひずみ、光は直進するんですけど。直進してるつもりなんだけど、空間が曲がってるので曲がってしまうという、そういうことなんですね。

で、これがそうなんです。アインシュタインはこのことを予言していて、だからアインシュタイン・リングというんですけど、そういうのがあるだろうと。だけど、きっと見えないだろうと言ってます。要するに、こんなことはめったに起こらないので。一直線に並ぶなんていうことは。多分見えないだろうと言ってたんですけど、最近の望遠鏡の進歩ですね。遠くの遠くまで、ものすごい遠くまで見れるようになったので、これだけたくさん見付かってます。アインシュタイン・リング、非常にきれいなものですね。宇宙の宝石みたいな、指輪みたいな。で、これをやるとですね、大体この重力の強さがどれだけかということが分かるんです。どれだけ曲がるかということから、この重力の強さが決まります。で、この重力を作ってるこの星の明るさと比べるわけです。そうすると、やっぱり10倍足らないといってるわけですね。

宇宙背景放射

そのほかにも、最近では「宇宙背景放射」。これも分からないですよ、まだ。宇宙背景放射というのは、聞いたことありますよね。ありませんよね。これは、宇宙はどうしてできたかっていうのに、宇宙は最初大爆発を起こしたと。ビックバンというものです。で、あるところで光と物質が相互作用しなくなります。「晴れ上がり」っていいますけれど、最初はコークだとかグルーオンだとか、なんかものすごい素粒子の世界だったのが、だんだん中性子とか陽子になって、それで水素原子ができるようになります。そのころになると、光と相互作用できなくなりますね。

ちょっと難しいけど、光の波長がどんどん、どんどん下がって、膨張とともに光のエネルギーが下がっていく。最初は光で満たされてるのは、聖書の記述は最初だけ正しいんです。「最初に光ありき」といってるように、宇宙の最初は光のほうがずっと多いんですね。われわれの水素原子とか、宇宙のほとんどは水素原子とヘリウムですけど、その原子の数と光の数を比べると、光の数は10の10乗倍も多いんです。多かったんです。それがそのまま宇宙が膨張してるわけです。

だから、そのときの光を今どうなってるかというと、今、マイクロ波になってます。最初はガンマ線か何か、ものすごいエネルギー高かったはずなんだけど、どんどん、どんどん波長が下がって、今はマイクロ波です。マイクロ■■、何メガヘルツとか何ギガヘルツとかいう、そういう世界。光でもなくて。そういうふうになって、それを宇宙背景放射といいます。これで宇宙は満たされてます。これは、エーテルじゃなくて、実際に測定されてるので。明らかに。ここにもこういう■■がありますが、宇宙の最初の光がまだ残ってます。だけど、マイクロ波で(不明)、大体1ccに1個ぐらいはあるんじゃないかといってます。でも、観測するのはものすごく難しいですよ、それを。そこらじゅうに電波があるから、「これが宇宙の最初からあった光や」というのは、それは難しい。

でも、それも偶然見付けたんですね、ある人が。ベンジャスとウィルソンという人が一所懸命マイクロ波を■■、どうしてもノイズが取れない。そのときに、「ああ、これはノイズじゃない」と。宇宙から昔あった、宇宙開闢以来あったマイクロ波だったんだということにある人が気がついて、今では簡単に測れるように……。簡単ではないけど、今、衛星で全天のマップを撮ってるわけです。全宇宙にどういうふうに分布してるか。それは、宇宙が最初どうだったかという情報をわれわれに与えます。  これ見ると、いろいろ揺らいでるやろう? 明るいところもあるし、この色で分布してるんです。

全宇宙を。これもWMAPという衛星で最近撮ったんですけど、最近のサイエンスでは、研究発表すると論文にしますよね。だから、われわれ科学者に、研究者にとって、論文を書くっていうのは評価、その評価を決めるわけです。論文委員会で。その評価は、その論文がほかの人にどれだけ引用されたかという、引用回数というので評価される。なかなかせち辛い世の中ですよね。たくさん引用してもらえる論文を書かないと、なかなかいい研究をしたことにならない。で、このWMAPの論文は多分、もう数年たって、まだ数年しかたってないけれども、ランキングでトップです、ほとんど。それぐらい注目されてるんです。

で、ここから先はちょっと難しくて言いませんけど、どうしてこういうふうにむらがあるかっていうのを、このむらを解析するわけです。どうしたらこういうむらが作れるかということを調べていくと、宇宙の全エネルギーのうち、見える物質は4%しかない。で、ダークマターが24%。あと、何か分からないダークエネルギーというのが72%だと。で、これ、エラーバーもついてるんです。

もうほとんど数パーセントのエラーバーになってます、今。これはまあ、ちょっとした大事件ですよね。これだけの証拠がそろってきたので、このダークマターというのは、多分、物理学者10人のうち9.5人ぐらいは信じてるんじゃないかと思います。あと零点何人ぐらいは、「うーん、待てよ」とか言ってるかもしれない。

それで、ダークマター、どういうのがありうるか。これは、素粒子論の世界からいろんな提案が出るわけです。宇宙物理と素粒子物理っていうのは、わりあい最近はお友達になっています。で、素粒子論からの予言としては、未知の素粒子、「アクシオン」というのと「ニュートラリーノ」というのが、今、二つ候補として挙がってます。これがダークマター候補であるわけです。そういうのが宇宙にたくさん最初に、宇宙の開闢のときにいっぱいできて、それがダークマターとして存在する。要するに、光とは相互作用しないし、電磁相互作用もしないし。何か相互作用したらすぐ分かりますからね。そういうものが予言されていて、それが候補になってます。

もちろんそうじゃなくて、見えない星がほかにあるという説も、消えているわけではありません。要するに、惑星がやたらたくさんあるんじゃないかとか。惑星は光りませんから、見えませんよね。でも、太陽系の重さの圧倒的な部分は太陽なんですね。惑星を全部足したって、へのかっぱみたいなもんです。あるいは中性子星。この間もちょっとお話ししましたが、中性子でできた星。あるいはブラックホールがやたらにいっぱいあるんちゃうかとかいう説も、完全に消えてはいないんですけれど、わりあい信じる人は少ない。それの理由の一つは、先ほど言ったWMAPという、背景放射のこういうものを作るというのが、なかなかそういうものでは作れない。宇宙の初期に作ってしまわなきゃいけない。最初は、星なんかができる前からあったということを■■するので、ダークマターというのは、やっぱりわれわれが、本当だとすると、われわれが今はまだ知らない素粒子なんじゃないかという説のほうが有力になってるわけです。